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登録日:2014/01/30(木) 09 22 35 更新日:2024/04/12 Fri 11 20 09NEW! 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 3部 GOODNEWS Hail 2 U だめだね どんな願いでも叶えてやろう カメオ ジャッジメント ジャッジメントですの ジョジョ ジョジョの奇妙な冒険 スタンド使い スターダストクルセイダース ランプの精 丸焼き 君に幸あれ 土遁 大友龍三郎 審判 小便 有本欽隆 本体は空気 白井黒子 絶対に許さない 近距離パワー型 遠隔自動操縦型 高木渉 Hail 2 U!(君に幸あれ) 『ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース』の登場人物。 CV:高木渉(PS版ゲーム)、大友龍三郎(ASB)、有本欽隆(TVアニメ版)。 【概要】 DIOに雇われたスタンド使いの一人で、紅海の小島で待ち構えていた。 …のだが、後述するスタンドが登場する機会の方が多く、「本体」がまともに登場したのは2ページだけ。 尤も、他に一言しか喋らなかった敵もいるので問題ない。 ロン毛だが惜しいかな、頭頂部は寂しい。何気に外見がかなり世紀末な格好をしている。 名前の由来は、アメリカのR Bバンド「キャメオ」。 【スタンド】 3つ!3つだッ! 願い事をいえ!かなえてやろう! おまえの望むものを3ついえッ!! スタンド名:『審判(ジャッジメント)』 破壊力 B スピード B 射程距離 C 持続力 B 精密動作性 D 成長性 D スタンド像は数あるスタンドの中でも特にロボットらしい外見をしている。 手の指は三本であり、関節部分などにもそれらしい機構が搭載されていたり、 破壊すると体内にあった歯車なども出てくると最早完全なロボットである。 アニメでは動く度に機械の機動音が出るので益々ロボットらしさが出ている。 分類は劇中では近距離型パワースタンドだと言われているが、 本体にダメージがフィードバックしない 割と射程距離が長い ランプをこする事によって発動する 自身の戦闘手段は徒手空拳の肉弾戦のみ 自分の意思を持ってるかのような言動が多い …などなど、後の部のポルポのスタンド『ブラック・サバス』と似たような部分が目立つため、正確には(第3部時点では確立していなかった)遠隔自動操縦型のスタンドである可能性が高い。 もしくは、近距離パワー型と遠隔自動操縦型の両方の特性を持ったスタンドと言えるのかもしれない。 ◆能力 能力は「ターゲットの『願い』を土に投影し、実体化させる」。 例えば「金がほしい」と願うと金が具現化し、「○○(人物)に会いたい」と願うとそれが例え死人であっても現れる。 あくまで土で出来た幻なので壊れると土になる。 しかし、壊れなければ本物と見分けがつかない程に超精密な偽者が作られる。 「願い」は本体のカメオが全く知らない人物でも有効で、身長・体重・顔・体型・匂い・記憶・声に至るまで、何から何までそっくりそのまま再現する事が出来る。(*1) だが、『審判(ジャッジメント)』の手で生み出された生物はターゲットを襲う「土人形」であり、願った者を食い殺す為攻撃する。(*2) 「土人形」の戦闘能力は成人男性を殺せる程に高い。 その「土人形」が「自分が会いたい者」の場合は成す術もなく嬲り殺しにされる。 だからといって『審判(ジャッジメント)』を倒そうにも、能力抜きの純粋な戦闘能力も高いので手に負えない。 ただし、本人の弁では、叶えられる願いは一度(一人)につき3回まで。 4回目以降は無理らしい。(*3) あとどうやら、本体であるカメオ自身の願いを叶えることは出来ない模様。 もしかしたらカメオは劇中で語られていない所で、「3回まで」の自身の願いを既に使い切ってしまっていたのかもしれない。 発動条件こそ面倒だが、「人間の最大の弱点は、その人間が心から願う事である」という考えの通り、 心の弱い人や過去を引きずる人にはこの上なく脅威的なスタンドである。 弱点は願いはその者の「心からの願い」でないと意味がない点。 最初の願いのような金銀財宝だと(ニセモノだが)ただ叶えてやるだけとなり、『審判(ジャッジメント)』としては相手を術中に嵌める「3回まで」の制限をムダに消費した事になる。…漫画家やポルナレフランドの場合はどうするつもりだったのだろうか…。 劇中ではシェリーやアヴドゥルの死に負い目を抱いていたポルナレフだからこそ願いの誘惑に乗ったのであり、別に叶えてほしい願いのない花京院や承太郎では無意味だったと思われる。(*4) 特に花京院は、スタンドによって本体の場所を探し当てられてしまう為、相性最悪である。 あと、能力と「土人形」の支援ぬきのガチンコ勝負では、単純な肉弾戦しか手段がないというのも弱点と言えば弱点。 上記の通り、この点も「実は遠隔自動操縦型なのではないか?」と言われる要因である。(*5) そして、そう言ったタイプのスタンドの宿命か、スタンドは強いが、本体を叩かれると弱いのも痛い。 これを解消するために、本体はある方法をとって隠れていたのだが(後述)、それは自分の逃げ場をも無くしてしまう、ハイリスクハイリターンな方法であった…。 【活躍】 アヴドゥルの死を引き摺るポルナレフが偶然拾ったランプをこすると、 『カメオ』と名乗る魔神が現れ「願いを3つ叶える」と言ってきた(おそらくスタンド能力の術中にハメる為の演出だと思われる)。 信じようとしないポルナレフは試しに「金持ちになりたい」と言うと、ナポレオン時代の金銀財宝が目の前に現れる。 半信半疑ながらも全く敵意を見せない魔神に心を許したポルナレフは、 マンガ家にしてみろッ! 子どものころからなりたかったんだッ! ディズニーより売れっ子のやつがいいッ! みじめなヤツはヤだぞッ 「ポルナレフランド」をおっ立てるんだ!! 等と言ったり(*6)、「富や名声より愛だぜ(力説)」とステキな彼女が欲しいだの、欲望丸出しのカオスな願いを出すが、「死者に会えるのか?」という考えから 「妹を蘇らせて欲しい」と願うと彼の前に妹・シェリーが現れるが、それはポルナレフを攻撃する「土人形」。 「お兄ちゃんを食べれば完全になれる」とのたまい、ゾンビの如く自身に襲い掛かるシェリー(土人形)の姿に、ポルナレフは大いにショックを受ける。 慌てた彼は願いをキャンセルしようとするが… いやだよおォォォォ~~~~んンンンン 魔神は自分がスタンド『審判(ジャッジメント)』である事をバラし、既に三つの願いを叶えたとしてこれを拒否。 その直前の三つ目の願い「アヴドゥルを生き返らせろ」によって出されたアヴドゥルの「土人形」もポルナレフに襲い掛かる。 ようやく魔神…否、『審判(ジャッジメント)』が敵であることを認識したポルナレフは攻撃を仕掛けるも『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』が拘束され、二人の土人形に為す術なくフルボッコ状態で攻撃される。 死を覚悟したポルナレフの目にアヴドゥルの土人形が2体いるかのような光景が映った。 だが、それは錯覚などではなく、復活した本物のアヴドゥルが間一髪で助けに入る姿だった。 バカなッ!死んだはずの! 吊られた男J・ガイルに背中を刺され 死んだはずのッ! 『モハメド・アヴドゥル!!』 YES I AM! チッ チッ♪ アヴドゥルの復活に驚いた『審判(ジャッジメント)』だが、直ぐに切り返してシェリー(土人形)を盾にするというゲスな行為をした後、自身のスタンド能力で追い詰めようと「願いを3つ言え」と問うも、 「4つに増やしてほしい」と返された。 術中にハマらないアヴドゥルに激怒した『審判(ジャッジメント)』は、一度敗れたアヴドゥルなど大したことないと嘗めきって戦闘に入るが、アヴドゥルは静養によって情報よりも遥かにパワーアップしていた。 第1の願いは、『痛みの叫びをあげさせること』。叶ったな。 そして、第2の願いは『恐怖の叫びをあげさせること』。 更に第3の願いは!『後悔の泣き声』だ!! 自身をも上回る力を持つ『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』の前に『審判(ジャッジメント)』はフルボッコにされ、完全敗北した。 その後、本体であるカメオは何処にいるのかと探すが… そこには、土に不自然に刺さった竹筒がひとつ。 よく聞くと呼吸の音が。 実はカメオは土中に隠れていたのだが、あまりの不自然さにアッサリと見つかってしまう。 妹を利用された事でブチ切れてたポルナレフに、呼吸用の竹筒に色んなもの(*7)を入れまくられ、トドメにアヴドゥルがポルナレフを「男の友情」として誘った小便をぶっかけられてしまった。 たまりかねて飛び出し、降参するが、人(ポルナレフ)の純粋な願いを侮辱し、死者の尊厳を冒涜しまくった行為にポルナレフ以上にブチ切れていたアヴドゥルにこんがりと焼かれるのだった。 4つめの願い…それは… 『お前の願いは全く聞かない』事。 『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』は許さん! だ め だ ね ドーーーーーン チャンチャン 【余談】 末路こそはマヌケだが、一度はポルナレフを完全に追い詰めた点から言っても、かなりの強敵であった事には違いないだろう。 『ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風』終盤でポルナレフがディアボロに殺されて過去の記憶が走馬灯のように流れるシーンで明らかに場違いの『審判(ジャッジメント)』がデカデカと登場する。 因縁のあるDIOやJ・ガイルやキーパーソンのエンヤ婆を差し置いて何故コイツをチョイスしたのだろうか…カメオ出演? ただ、VS『審判(ジャッジメント)』は良くも悪くもポルナレフにとって印象に残る戦い(実際、戦歴だけ見ると生を諦める完全敗北)だったのでチョイスされたのだろう。 ……それでも、突然現れたコイツに首を傾げる読者は多いだろうが。 TVアニメ版ではシェリーの思い出やポルナレフランドの妄想を映像化する演出が付け加えられている。 そんな中、『銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)』がマスコットになっているディ○ニーランドにしか見えないテーマパークのポルナレフランドで、 多くの視聴者の腹筋を破壊しただろう。いや、確かにポルナレフの分身だけど… そしてアニメでは『審判(ジャッジメント)』がシェリー(土人形)を盾にしたシーンで、「シェリーはもう死んだんだ。お前はただの土人形だ!」とポルナレフ自らの手で引導を渡しており、ポルナレフの中の『妹の死』という呪縛から決別するシーンとなっている。 だがトドメを刺されたシェリー(土人形)は、最期の瞬間、まるで「ありがとう」と言ってるかのように微笑んで土に戻っていった。 もしかしたら、本当に「本物の」シェリーの魂が土人形に一時的に宿っていて、兄が自分の死から決別出来たことで、彼女はようやく成仏する事が出来たのかもしれない…。 SFC版ではキャラの途中退場が一切ないので、パキスタンのエンヤ婆の屋敷で登場する。 何も言ってないのにジョースター一行の望みを勝手に聞き、承太郎やホル・ホースの偽物を嗾けてくる。 「モハメド・アヴドゥルが記事を追記・修正している・・・」 この"BAD NEWS"、DIOや他の仲間たちに知らせなくてはいけないんじゃあないか? 確かに悪い知らせだ・・・ しかしその知らせはこう伝えられる 「"審判"のカメオはポルナレフのアホとついでに生きていたアヴドゥルの項目を荒らしました」と OH!GOOD NEWS!に変更されるのだ! △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] ギャグっぽいオチにはしてあるが、死者への想いを殺しの道具として利用し冒涜する第3部どころかジョジョ史上屈指のゲスなスタンド使い。7部のアクセル・ROの同類。 -- 名無しさん (2014-01-31 09 34 44) だから魔術師の赤は許さなかったのか -- 名無しさん (2014-01-31 17 03 17) 黒焦げで済んだだけありがたいと思え!みたいな -- 名無しさん (2014-02-10 11 01 31) ジャッジメントの名前の元ネタになったタロットカードの「審判」には「復活」という意味があるとか。このスタンドが出てくる回でアヴドゥルの復活が描かれたのはそれとかけてたのかな。 -- 名無しさん (2014-05-16 21 27 18) こいつとの戦いはアヴドゥル屈指の名シーン -- 名無しさん (2014-05-16 21 35 21) ポルナレフの願いをかなえる カメオの提供でお送りします -- 名無しさん (2014-05-16 22 24 23) ↑うろジョジョやめいw -- 名無しさん (2014-05-16 23 57 14) テレビアニメ版のCVは島田敏に担当してほしい -- 名無しさん (2014-08-15 06 11 10) 相手が、形にならない願いばかり言ったらどうするんだろう?それとも願わなくとも土人形は自由に作れるのかな? -- 名無しさん (2014-08-15 10 16 43) アヴドゥルが願いを4つにして欲しいって言ったらキレてたあたり、抽象的なのは無理なんじゃない? -- 名無しさん (2014-08-17 15 21 37) 目的が「実体化させた願いに攻撃させること」なんだから、具体的な奴じゃないと無理だろうな -- 名無しさん (2014-08-17 15 47 16) 予告の時点でエラい渋い声だなと思ったが、まさかの有本さんとはね。 -- 名無しさん (2014-08-23 01 59 19) 失った大切なものを追い求める人間は「死んだ人間が生き返るのが不自然なこととは、これっぽちも思わない。」のだろうか・・・。 -- 名無しさん (2014-08-23 02 44 02) 条件が厳しすぎるよな。あの、アラビアン・ナイト的な演出がなかったら能力が使えんかもしれないし。一応、スタンド自体の戦闘力も高いとはいえ。 -- 名無しさん (2014-08-23 03 02 02) この上なく驚異的なスタンド どっちかっつーと脅威的じゃないだろうか -- 名無しさん (2014-08-23 03 41 58) もしもポルの漫画家の願いが通ったらポルは土でできた漫画家の格好をさせられ土でできたファン達が食べれるから嬉しいのよとか言いながら襲ってきたりして -- 名無しさん (2014-08-25 20 55 52) 5部の件は、心の底から、それこそ死ぬほど会いたかったシェリーにようやく会えたと思ったのにそれが敵スタンドの攻撃だったってことが相当ショックだったんじゃないかな。アヴドゥルさんが復活した事であまり触れられてないけど、相当に悲しいシーンだよこれ -- 名無しさん (2014-08-26 15 13 08) 後の下衆な白い淫獣である -- 名無しさん (2014-09-04 22 05 56) テレビアニメの中の人は白ひげやパトリック・ザラの人か。 -- 名無しさん (2014-09-11 23 35 45) スタンドのデザインは石ノ森章太郎先生の作品をイメージしたという。キカイダーやロボット刑事あたりを参考にしたのかな? -- 名無しさん (2014-09-26 15 07 33) 走馬灯に出てきたのはポルナレフの精神が一番揺さぶられた敵がカメオだったからなんじゃないかな。つーか死の直前に思い出す敵がJガイルとか死んでも死に切れなくなるだろ…あのゲス野郎は何回殺しても足らんだろうし。 -- 名無しさん (2014-10-06 02 46 39) ↑光彦に比べればJガイルは仏様みたいなもんだよ -- 名無しさん (2014-12-07 14 04 04) ポルポルの心を揺さぶった敵の一人であったのは確かだ -- 名無しさん (2015-07-27 01 11 55) J・ガイルは自分の手で決着をつけたからな。多分ポルポルにはすでに終わった登場人物なんだろう。その点カメオには完全敗北した上に決着までアブドゥルが持っていったから、未練というかわだかまりがまだ残ってるのかもしれん。 -- 名無しさん (2018-01-18 10 15 34) 近距離パワー型でスタンドパワーも強いのに、本体にフィードバックがない異例のタイプなんだよな。初期のスタンドだからと言われればそうなんだけど、なんか可能性ありそうで好き -- 名無しさん (2018-07-26 00 18 54) 近距離パワー型ってあるけど、基本的には遠隔自動操縦型に近いんじゃないんだろうか。『ハイウェイスター』みたいに切り替えが可能とか。 -- 名無しさん (2019-12-03 19 57 56) 女の子にモテモテになりたい→土人形の女子のハーレムにむしゃむしゃされる みたいな展開になりそうだな -- 名無しさん (2021-01-15 16 23 54) マジシャンズレッドで結構重症っぽく見えるダメージだったけど、カメオは割と食らってなさそうなんだよなぁ -- 名無しさん (2021-06-27 20 26 55) 何気に素の肉弾戦でチャリオッツを完全に手玉に取ってるやべーやつ -- 名無しさん (2021-11-26 23 27 32) 「いやだよーん」好き -- 名無しさん (2022-02-09 10 13 44) 実は途中まで本物のランプの精の設定だったんじゃないだろうかというのは強引すぎるか -- 名無しさん (2022-11-07 17 48 57) 死ぬ前のポルナレフが思い返したのは、仮にも願いを叶えるスタンドだからってのもあるかな。状況的には矢を渡さないために文字通り命賭けに出るしかないっていう感じだし無念ではあるのだろう。願いを叶えるというなのなら俺を救ってみろって思いが出たのかもしれん。 -- 名無しさん (2023-05-27 16 21 28) 名前 コメント
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『ゼロと奇妙な隠者と――?』 冬もそろそろ過ぎ去り、歩みの遅い春が訪れようかとする頃。ジョセフが召喚された春から一年弱、ルイズ達も三年生に進級することを決めて一足早い春休みに入ろうとしていた。 使い魔として平民が召喚されただけでも大概大事だと言うのに、それから起こった数々の出来事は辛いことも悲しいことも楽しいことも嬉しいことも手当たり次第。 それでも、この一年をもう一度過ごせと言われれば、喜んで過ごしたいと思うようなお祭り騒ぎだった。少なくともルイズと彼女の親友達はそう思っている。 そんなお祭り騒ぎの毎日でも、そんなに毎日イベントが詰め込まれているわけでもない。何かしらのイベントが起こる日よりも、平穏な日々の方が多いに決まっている。 だが今日から、ルイズとジョセフ主従、そして彼女達を取り巻く人々から平穏な毎日と言うものが消し飛んでしまうことを、まだ誰も知らない。 その日の晩。キュルケは寮の階段を登り、フレイムと共に自室へ帰るところだった。 彼女の隣の部屋はもはやこの学院で誰も知らない者はいないルイズの部屋である。ジョセフが召喚されてからも毎日毎日騒がしかったが、彼がシュヴァリエの称号を受けて貴族になり、シエスタがジョセフ付きのメイドになった最近は騒がしさに拍車がかかっている。 それも大体はルイズとシエスタがきゃんきゃん言い争いをしているため、そのけたたましいことと言ったら。しかもジョセフが積極的にスケベなものだから二人にちょっかいを出したりしてとんでもないことになったりするのがどうにも。 今夜も今夜とて階段を登り切っていない内から騒ぎ声が聞こえてくる。 「本当に飽きないわねえ。もうちょっと他人の迷惑とか考えてくれないかしら」 自分も部屋に毎晩お客様を招待しているのは棚に上げて、呆れた様子で呟いた。 だが少女二人の騒ぎ声が、何やら普段と違うようだった。 何とはなしに赤ん坊の泣き声のような声も聞こえてくる。 「え? 何? そういうプレイ?」 キュルケの頭の中ではルイズとシエスタに囲まれたジョセフが赤ん坊のカッコをしてあんなことやこんなことをしているピンク色の妄想が素晴らしい勢いで広がってしまった。 すげえ。これは後学の為にも見物……いやいや見学させてもらうべきかもしれないわ。 そう考えたキュルケはすぐさま足取りを抜き足差し足にし、ルイズの部屋の前へ素早く辿り着いた。 だが近付いていくごとに、部屋の中で行われている光景が奇妙に変貌していく。 ルイズとシエスタの声に赤ん坊の泣き声……と焦っているらしいジョセフの声。 なんだ? 四番目の誰かさんがいるのか? もはや好奇心は沸点直前。 キュルケは期待に打ち震えながら、ドアノブを掴んで一気に蹴り開けたッ! 「ハーイ皆さん! 何してるのかしらーーーーッ……て」 そこで繰り広げられていた光景は、キュルケの思考を凍結させた。 部屋の住人であるルイズとジョセフとシエスタ……はまあいい。いておかしいことはない。だが問題は。大問題は。三人が床で車座になって全裸になっているという―― (あ。やっべ。これは) キュルケはすぐさま現状を把握すると、何気なく手を上げて廊下へ出て行く。 「ごめん。お楽しみの真っ最中だったとは。お邪魔虫はクールに去るわ」 「いやいやいやいやいやいやいやいや!!!」 現実に素早く立ち戻ったルイズが勢い良く立ち上がり、気を利かせて去ろうとするキュルケを無理矢理引き戻そうとする。 「ちょ! あんたルイズ! 服くらい着なさいよっ……て」 小さな身体の何処にそんな力があるのか、というくらいにキュルケの腕をつかむルイズは、きっちりと制服を着込んでいた。 「事情は中で説明するから! 早く入りなさいよ!!」 そのまま部屋に引きずり込まれたキュルケは、何とはなしに(ああ、男一人に女三人というのは初めてだわ。女の子相手でも大丈夫かしら)と考えていた。 それから数分後。 キュルケはルイズとジョセフとシエスタからの説明(主にジョセフ)を受けて、一応は事態を納得した。 今、彼女の腕の中では赤ん坊らしき何かが泣きじゃくり、彼女の服もまた消え失せていた。ジョセフから手渡されるまでは半信半疑だったが、こうやって実際にだっこしてみると信じざるをえなかった。 「これがスタンド能力? でもダーリンのハーミットパープルとは違うわよ」 「そりゃそうじゃ。スタンドッつーのはそれぞれ個人差があるモンじゃからの」 そう言うジョセフの両目は後ろから覆い被さるルイズの両手で隠されていた。 事の発端はこうだ。ジョセフが昼間に洗濯をしていると、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。何かと思って近付くと乳母車があり、その中に透明な赤ん坊がいたのでひとまず拾ってきて現在に至っているらしい。 「そもそも乳母車の材質がこっちじゃー作れやせんモンじゃからの。この子もなんかの拍子でこっちに来ちまったと考えて問題はないじゃろ」 ちなみに乳母車にはばっちり「Made in Japan」の刻印がついていた。 「それにかんしゃく起こすと服以外にももっと色んなものが透明になっちゃうのよ。私達でどうにかしないとどうにも出来ないわよ。それに……」 (ジョジョのお願いを無碍には出来ないもの) ぽそぽそ、と何かを言ったのは三人には判ったが、何を言ったのかは聞こえなかった。だが大体何を言ったのかは、判られてしまった。 「はいはい判った判った。でもどうするのよ、普通の子供ならまだしも子守りなんて雇うワケにもいかないでしょ? 下手に知れたらアカデミーに連れてかれたりしかねないわ」 悪名高いアカデミーのことは、ゲルマニア出身のキュルケでも大体知っている。 これまでに華々しい戦歴を挙げてきたルイズとジョセフがいまいち認められていないのも、アカデミーに二人のことを知らしめてはいけないという、オスマンとアンリエッタの配慮によるものでもある。 「その点は大丈夫です、ミス・ツェルプストー。私は故郷で弟や妹達の世話をしてきましたし、子守は慣れてますから」 シエスタがしゅたっと手を上げる。ここでジョセフの点数を稼ぐ目論見も当然ある。 「でもシエスタ、あなたも昼間色々仕事してるでしょ。この上仕事増やしたらキツくない?」 彼女の目論見を看破したルイズがすぐさまジト目でツッコミを入れる。 「いざとなりゃあわしが寝ないで子守してもええがの」 24時間働けるEnglish Man In NewYork(←イギリス人には見えないし空気読んでない)が現れた。 「とりあえず他にも色々と問題があると思うんじゃよ。赤ん坊は泣くのが仕事じゃし、しかも気に入らんことがあれば周りのものが全部透明になっちまう。一応学院長には話を通してきたからいいんじゃが、あまり周りに知らせるアレでもないからのー」 「んじゃタバサとギーシュとモンモランシー辺りにも話を付けといていいんじゃない? あそこらへんは言うなって言ったら言わない面子だし」 こういう時に現実的な思考が出来るキュルケは頼れる味方である。 「まず、色々用意しなくちゃいけないモノがあるんじゃないの? 子供育てるって一言で言ったって、買うものだってあるでしょ。次の虚無の曜日に、城下町へ行くなりしないと」 キュルケの言葉に「あ」という顔をした三人を見て、彼女は自慢の赤毛を緩く振った。 「……明日にでも、城下町で色々揃えてきなさい。先生には上手に言っといてあげるから」 これはこれから苦労するぞ、という直感を疑おうともせずに溜息をついてから、キュルケははたと思い当たったことを口にしてみた。 「そう言えば、フーケ騒動からどのくらい経ったっけ」 いきなり何を言い出すんだと思いながらも、ルイズが答える。 「ええと……ジョセフが召喚されてからちょっとくらいしてだから……十ヶ月前?」 「正確には十ヶ月と一週間ちょっとだわね」 にまぁ、と満面の笑みを浮かべた口元を手先で覆い隠したキュルケへ、ルイズはいつものように眉毛をV字にして声を尖らせた。 「何よキュルケ。言いたいことがあるならちゃんと言えばいいじゃない」 「あ、言っていいんだ?」 今にも笑い出しそうな唇を懸命に動かしながら、キュルケは自分の想像を口にした。 「あのお熱いベーゼでルイズが孕んだ結果だって考えたら辻褄合わない? 御懐妊から御出産までそのくらいだって考えたらちょうどそのくらいだものねー」 いつものように大暴れし始める二人を押し留めたのは、赤ん坊の泣き声と、なんでもかんでも透明になっていく光景だった。 それから老人と少女達の悪戦苦闘七転八起の子育てが始まることになる。 ただでさえ気性が激しいのに透明な女の子(シエスタの触診で判明した)ということで、並々ならぬ苦労があることは火を見るより明らかだったが、それを育てる親代わりがジョセフも含めて世間知らずな貴族達というのもまたシエスタの苦労の種の一つだった。 子育て経験豊富なシエスタはともかくとして、ルイズ、キュルケ、タバサにジョセフと、子育てに積極的に関わることになった他のメンバーは非常に役に立たないので、「将来必要になるかもしれない」ということも含めてシエスタの子育て授業が始まることになった。 「まさか平民の私が貴族の皆様方にこんな事をお教えする日が来るだなんて」とあわあわしていたシエスタだが、必要に迫られた生徒達の飲み込みは非常に早いことに安堵もした。 赤ん坊が透明な件についても、キュルケから提供を受けた化粧品で化粧をさせることで一応の決着はついた(でもこんな若い頃から化粧するとお肌にどうかしらねえ、と言ったキュルケに「お前が言うな」というツッコミも入った)。 そして誰が親代わりになるかという点については、赤ん坊がジョセフにばかりよく懐いていたので、満場一致で「ジョセフの子供」ということになり、めでたく「静・ジョースター」という名前をつけられることとなった。 長期休暇中ということもあり、シエスタやジョセフがメインで静の世話をする中、他の三人が代わる代わる手伝いをするというパターンが成立していた。 しばらくは慣れない子育てに七転八倒していたのも、すぐに七転八起になり、やがて全員が赤ん坊を抱く手付きにも慣れた様子が見えるようになってきた。 「魔法の勉強より大変」とタバサが呟いたのだから、平坦な道のりではなかったのだが。 しかし一つの問題が解決したと思えてきた頃、密かにもう一つの問題が成長していた。 すっかり春めいて花も咲き誇る頃、静はすっかりジョセフを独占してしまっていた。 静が透明なのをさておけば、どこからどう見ても孫の世話をする祖父そのもの。 だがそれは、ついこの間まで祖父の横にいた孫、ルイズには気に入らない事態だった。 (何よ何よ! 私の使い魔なのにどうして赤ん坊の世話にかかりっきりなのよ!) 子供も喋れない赤ん坊に嫉妬するのもどうかと思われるが、実際に弟や妹に親を取られたと思った子供は、親の目を引こうと「子供返り」と呼ばれる退行現象を起こすことがある。 大家族の生まれであるシエスタは赤ん坊とはあんなものだ、と割り切ることが出来たが、末っ子なルイズはそんなことだと割り切ることも出来なかった。有体に言えば、ヤキモチが悪化したということだ。 その結果、丸一日ジョセフ達の前にルイズが姿を現さなかったのに至り、キュルケとタバサはある重大な決意を固めた。 二つの月が大きく空を輝かせるその日の夜。主のいないルイズの部屋の中、揺りかごの中ですやすやと寝息を立てている静を、椅子に座ったまま優しげに見守るジョセフの後ろにキュルケがやってきた。 「あ、ダーリン? シズカはあたしが見てるから、ちょっとルイズのトコに行ってあげて」 「あん? いや、じゃがキュルケももう寝る時間じゃろ? なんならシエスタに……」 「あー、シエスタなら今日は仕事が多かったからって部屋で寝てるし」 モンモランシー特製の睡眠薬で、一番のお邪魔虫は朝までぐっすりである。 「それに孫はシズカだけじゃないでしょ。ルイズもたまには構ってあげないと」 「ふむ……そうじゃの。んじゃ、ちょっとの間子守を頼めるかの」 ジョセフはルイズを大人だと認めているので(少しの間ならほっといても大丈夫)と思っているフシがある。だがジョセフは自分も17歳だった頃をすっかり忘れてしまっているが、17歳なんていうものはまだまだ子供もいいところである。マンモーニである。 そしてキュルケに言わせれば「ルイズもダーリンもコドモ」……と。まあそんな所である。 と言うわけでジョセフはルイズを探しに部屋を出て行って。キュルケは苦笑しながら、音を立てないようにそぉっとジョセフが座っていた椅子に座った。 ルイズはヴェストリの広場の片隅で一人、膝を抱えて座り込んでいた。 もう何時間こうしてるか判らないが、部屋に帰るとイヤなコトを言ってしまいそうで帰ることは出来なかった。今もまだ、イヤなコトを言ってしまいそうなので帰れない。 それでも、きっと。 (……ジョジョが迎えに来てくれたら、帰れるかもしれない) 最初のうちは(迎えに来たら怒鳴り倒してやる)だったのが、(何よ自分の主人くらい迎えに来なさいよ! そんなに赤ん坊の方が大事なの!?)に変わり、やがて(……どうしよう、こんな時間になっちゃった。帰るタイミング逃した)を経て現在に至っている。 こうやってじっと一人でいると、「なによルイズ・フランソワーズ。赤ん坊に嫉妬してどうするっていうのよ」と、冷静な考えがやっと復活する。 色々ヤキモチだって妬いた。それこそジョセフに近付いた女性みんなにヤキモチを妬いてきた。でも、だからって。赤ん坊にまでヤキモチ妬くというのは、果たして貴族以前にオンナノコとしてどうなんだろう。 (……だってジョジョは……盛りの付いた犬で……私の使い魔なのに……目を放すとすぐに他の女の子にちょっかい出すし……で、でも、わ、わたしの……私の、おじいちゃんで……その……) おじいちゃん、と認めるだけでも顔が真っ赤になるのに、それ以上言おうとすれば顔から火が出るような騒ぎになる。 しばらく奮闘していたが、結局それ以上考えることも出来ず大きく首を振った。 (何よ私) 小さな小さな溜息を、ついて。 (……バカじゃないかしら) くすん、と小さく鼻を鳴らした。 さく、さく、と草を踏みしめながら近付いてくる足音にも、顔を上げなかった。 「おお、ここにおったか」 「……何しにきたのよ」 尻尾があれば思わずぴんと立っていただろうに、口から出るのはいつもの憎まれ口。 「老いぼれの犬めが寂しがりのご主人様を探しに来たんですじゃよ」 「うるさいっ」 不貞腐れてそのままでいれば、左によっこらしょと座った気配が感じられた。それから大きな右手で、優しく頭を撫でられる。 ルイズは抗うこともせず、ただ撫でられるままになっていた。 「あーと。ほら、機嫌直せ。いつからここに座っとったんじゃ、すっかり髪の毛が冷えちまっとるぞ。こんなじゃ風邪引いちまうじゃろ」 「……いいのよ。どうせ私はバカなんだから風邪なんか引かないわよ」 「迷信じゃよそんなモン」 そう言ったジョセフは、ルイズの腰を両手で掴んで軽々と持ち上げてしまうと、そのまま自分の膝の上に彼女を乗せてしまった。 「っ、何するのよ勝手に!」 抗議と共に背後のジョセフに振り向き睨み付けはするものの、相変わらずの気楽な笑みが見えただけだった。 「ほれ、冷えた身体を暖めてやらんとな。女の子は身体を冷やしちゃいかんからの」 腰に当てられた手からほのかに日差しのような光が漏れ、ルイズの身体に波紋のような暖かさが回っていく。 決して不快ではない心地よい温度に、ルイズは不服そうにしながらも静かに目を閉じた。 「またわしがなんかやったんかの。最近は……特に何もやっとらんつもりじゃったんじゃが」 「……別に何もないわ」 一瞬言葉を選んだ後で出てくる否定の言葉が、決して彼女の意思を忠実に表しているわけではないことは、もうそろそろ一年を経過する付き合いを経たジョセフにはよく判る。 「えーと。あれか。静のコトかの」 当てずっぽで言った言葉に、小さな肩がぴくりと震えた。 「……うるさいわね。いいわよ、主人なんかほっといて赤ちゃんの世話でもずっとしてなさいよ。ガンダールヴなんかやってるより子守やってる方がよっぽどお似合いだわっ」 その言葉に、ジョセフはおおよその事情を察した。隠せない苦笑を隠す努力もせず、腰に当てていた手を肩に回して、自分に振り向かせた。 「……何よっ。何か言いたいことでもあるの」 月明かりに照らされる少女の両目は、月光を受けて色濃く潤んでいた。泣き虫なこの少女は、自分に泣き顔を見せるのをあまり良しとしないのだ。 「んじゃまあ僭越ながら。静も大切じゃが、ご主人様もとても大切に思ってるんじゃよ」 「……あたしとシズカのどっちが大切なのよ」 「そりゃ両方じゃよ」 「嘘でもこういう時はご主人様って言いなさいよっ。気が利かないわねっ」 赤ん坊に張り合う17歳というのも、どういうモンじゃろうなあ。と思ってしまうのは、仕方のないことだった。 呆れも半分、微笑ましさも半分。 なおも何かを言い募ろうとするルイズの言葉を飲み込むように、唇を重ねた。 「んっ……」 きゅ、と瞼を固く閉じるが、ジョセフの唇を拒もうとはしない。 誰もいない広場の片隅に、ほんの少しの間だけ沈黙が訪れた。 そして、唇が離れた時。ルイズの小さな手はジョセフの耳を摘んでひねっていた。 「アイチチチチチ、お気に召しませんでしたかの」 その言葉に、更にぎゅうううう、と力を込めてひねり。そして、耳元に濡れた唇を寄せて囁いて。 ジョセフだけに聞こえた言葉に笑みを漏らすと、今度は両頬と額に、キスが落ち。それから もう一度、唇が重なった。 結局二人が部屋に帰った頃には、キュルケは椅子の上ではなくベッドの上ですやすやと寝入っていた。 ルイズに叩き起こされたキュルケは、寝癖の付いた赤毛を気だるそうにかき上げながら言った。 「シズカに弟か妹を拵えるのは、せめて学院卒業してからになさいよ」 To Be Contined?
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「……随分と大変な事をしてくれたものじゃ」 窓から赤い光が差し込む学長室。 その重厚な椅子に座り、オールド・オスマンは、扉近くに立つルイズに、ほっほっと笑いながら話しかけた。 まるで近所の御爺さんのようなオスマンに、ルイズはニコリとも笑わず、ただ立ち尽くしているだけだ。 「さて……ここに呼ばれた理由は分かっているかの?」 「はい、禁止されていた貴族間の決闘を行った事ですね」 淀みなく答えるルイズに、オスマンは、そうじゃ、と頷きながら髭を擦る。 長くて真っ白の髭は、オスマンが自分の身体で一番自慢できるものだ。 「ルールが何故あるか……分かるな、ミス・ヴァリエール?」 「ルールを誰一人守らなければ、国は、法は正しく動きません」 「そうじゃ……例え、それが生徒同士の喧嘩が原因で発展した決闘であったとしても、それをそのままにしておくと、確実にルールは無くなる。 故に、ミス・ヴァリエール。君に今回の件の罰を与える」 罰と言う言葉にもルイズは動じない。ただ在るがままを受け入れる水のように、ただそこに居る。 「君に1週間の謹慎処分を与える。1週間、ルールの重要性について、確りと思い返しなさい」 「はい」 ルイズは罰を聞くと、すぐに踵を返し、学長室を後にしようとするが 「これ、まだ老人の長話は終わっとらんぞ」 オスマンの声に身体を急停止させる。 「まだ何か?」 オスマンに振り返らず、後ろを向いたままのルイズに、ぼけぼけとした学長室の空気が変わった。 「本当に……わしがしようとしている話が分からぬか、ヴァリエール」 「ミスを付けてください。幾らオールド・オスマンと言えど、呼び捨てはいけません。 さっき、貴方は言いました。ルールは守るべきだと。 貴族は貴族同士を敬い、助け合う。その為に相手に対する礼儀は必要ですよね?」 「ミス・ヴァリエール!!」 オスマンの雷鳴の如き声が、学長室に響き渡る。 事務仕事で話に入ってこなかったロングビルでさえ、ビクッと思わず反応してしまった声だったが、 ルイズは後ろ向きのまま先程と同じように微動だにしていない。 「ミスタ・グラモンが、魔法を使えなくなったそうじゃ」 「…………」 「さらに言うと、君が彼と決闘をして、君が去る時に彼は自分で自分の首を絞めたそうじゃな」 「さぁ……私は自分の眼で見ていないのでなんとも……」 「話を誤魔化すのもいい加減にせんか!!!!」 立ち上がり、声を荒げるオスマンにルイズは振り返り―――――― 「誤魔化してなどいません!!」 学長室に来てから初めて声を荒げた。 「彼は、私を侮辱しました!」 「侮辱程度で魔法を使えなくし、殺そうとしたと言うのか!!」 オスマンの怒声に、ルイズは肩を揺らした。 それは別に、今更このオスマンの声に恐れをなした訳ではない。 侮辱“程度”!? この男は、侮辱程度と言ったのか!? オスマンの言葉に、ホワイトスネイクを嗾けなかったのは、ルイズに残っていた僅かな自制心から来るものであった。 その自制心で、自身を律したルイズは、オスマンへと向き、静かに淡々と、だが、荒々しく言葉を紡ぐ。 「では、オールド・オスマン―――貴方に尋ねます。 貴方は、他の人に使えて当然。なのに、自分はそれを使えなくて、使える者達と同じ扱いを受けた事はありますか!? その事で、お情けを貰ってるだとか、家の名前だけで、居座っていると、言われた事はありますか!? 他の者が、使えて当然のモノを、これ見よがしに見せ付けてきて、使えない事を詰られた事がありますか!? いつも、陰口を叩かれて、話しかけてくる者達が、挨拶のように馬鹿にしてきた事がありますか!? 自分よりも下の者に、使えない癖に、何を偉ぶっていると思われた事はありますか!?――――――」 それは、聖歌のよう透明であり それは、狂歌のように終わりがなく それは、鎮魂歌のよう悲しみに溢れていた 聞くに堪えない、言葉の羅列に、ミス・ロングビルどころかオールド・オスマンすら、その目を見開き、ルイズを見つめるしかない。 「貴方は……貴方は、家族に使えない事を心配された事がありますか!? 誰よりも、何よりも尊敬している目標の人に、使えない者として見られた事がありますか!? 自分を表す二つ名が……使えない事の意味を持つ言葉にされた事はありますか!? それを、皆が……使える者達が……毎日のように………… 毎日のように私に言ってくる気持ちが……貴方に分かりますか―――オールド・オスマン!!!!」 これが、ギーシュを殺害寸前まで追い込んだ、ルイズの感情の正体だった。 最初は、ただの劣等感であった。 それが、一年と言う月日で、様々な要因で歪んでいき……目の前の少女となった。 オスマンは思う。 もしも、ミス・ヴァリエールが召喚した者が、この奇妙な姿をしている者ではなく、もっと普通な…… そう、魔法を奪えるような力を持ってさえいなければ、この感情と折り合いをつけて、生活していただろう。 しかし、運命の悪戯か、ブリミルはなんという者達を出逢わせてしまったのか。 歪んだ感情の捌け口を求めていた少女と、偶然、その捌け口にピッタリ合う力を持っていた使い魔。 オスマンは所詮使える者だ。 ルイズの苦しみが、どれ程のものなのか、知る由も無い。 どうすれば良いと言うのだ、自分に。 一体どうやって、雨の中に置き去りにされたような目をした少女を救えば良いと言うのだ。 「…………ミス・ロングビル」 名前を呼ばれて、我に返ったロングビルがオスマンを見る。 それに対して、オスマンはただ頷くだけ。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 今日は、色々とあって疲れただろう……もう部屋に帰って休みなさい…… 罰に関しては、後日改めて――――――」 「貴方は!! 常に見下されて生活したことが―――!!」 「もう良い!!! もう、十分に伝わった…… 眠りなさい、ミス・ヴァリエール。 眠って、眠って、眠って……その身体を休めてくれ……」 オスマンは、それだけ告げて、椅子に深く腰を下ろした。 ルイズは、まだ何か言っていたが、ロングビルに連れられて、学長室を後にする。 ホワイトスネイクもその後を追う。 そうして、学長室にただ一人残されたオスマンは 悲しそうに、ほほっと笑う、その顔には後悔しか浮かんでいない。 「一年……たったの一年じゃ…… 一年前のミス・ヴァリエールは希望に満ち溢れていた。 自分が使える魔法を見つける為に、あらゆる努力をしていた…… そんな彼女を……ここは一年であそこまでにしてしまった…… ……悔やんでも悔やみきれんな」 そう言って、オスマンは静かに目を瞑り、何処とも知れぬ者に祈りを捧げた。 どうか、あの少女に眠りの中だけは安息が訪れるようにと…… 「頼む……返して……僕の……まほっ……」 真夜中の医務室。 そこに現在眠っている人間は三人。 一人は、精肉屋に行く為の下拵えをされたマリコルヌ。 もう一人は、貴族に勝った平民、平賀才人。 そして、最後の一人、ギーシュ・ド・グラモンは、ルイズに魔法DISCを奪われる瞬間の夢を見ていた。 それは、正しく悪夢だった。 彼の持つ、全てを、魔法も碌に扱う事の出来ない『ゼロ』に粉々にされる悪夢。 「うわっ……わ……あぁぁ……来る……来るな……・・・僕に……近づくなぁ!!」 「きゃっ!」 悪夢での自分の叫びを現実でそのまま叫んだギーシュは、それで目が覚めた。 慌てて自分の首を確かめてみるが、何にも束縛されていない。 きちんと、呼吸が出来る。 「良かったぁ……」 「……あの―――」 「うわっぁあぁぁぁ!!」 声を掛けられたショックで、またも大声を上げるギーシュであったが、そういえば、さっき、小さな悲鳴が聞こえたなぁと思い、落ち着いて回りを良く見てみると、闇に溶け込むかのような黒髪をしたメイドが、水差しを持ってこちらを見ていた。 忘れもしない……自分が、こうなるキッカケを作ったメイドだ。 「おまえっ!!」 立ち上がり、メイドの肩を掴むと、メイドは声を荒げ。手を振り解こうとする。 「おっ、落ち着いてください!! ミスタ・グラモン!!」 「落ち着ける訳が無いだろう!! お前の所為で、僕は、僕は!!」 ―――魔法が使えなくなったんだぞ!! そう叫ぼうとして、初めて、それをギーシュは正気の中で認識した。 自分は……魔法が使えない……惨めな『ゼロ』になってしまったのか…… ギーシュは、夢にも思わなかった。 本来使えるべきモノが使えない苦痛が、これ程のモノとは。 なるほど……ルイズは、これを毎日味わっていたのか。 恐らく、最初から使えない者の苦悩は、これの何倍も大きいのだろう。 そんな苦悩を持った者に、自分は、一体何を言ったのか。 ――――――魔法も使えぬ奴が貴族を語るな!!―――――― 違う……違うのだ。 今、分かった。 彼女は、別に偉ぶって、貴族らしくしていた訳では無い。 魔法を使えない彼女にとって、貴族とは最後の拠り所。 魔法も使えず、貴族も否定されたなら、一体彼女は何なのか? 「くそっ……僕が……僕が馬鹿だったのか……」 もっと早く気付けば良かった。 彼女の居場所を奪ってしまった自分の一言に。 「謝りに……謝りに行かないと……」 「お待ちください、ミスタ・グラモン! まだ、動いては駄目です! お身体に障ります!」 「邪魔をしないでくれ! ルイズに……ヴァリエールに謝りに行かないといけないんだ!」 今度は、メイドがギーシュの肩を掴み止めに入るが、 これでも、一応は男であるギーシュに体格差で負けている少女が止められるはずが無かった。 「わかっ、わかりました。ミス・ヴァリエールの元へ行く事を許可しますから このお薬を飲んでください」 「何の薬だい、これ?」 ポケットから薬包紙に包まれた粉末状の薬を取り出したメイドは、ミス・モンモラシからの差し入れです、と答えてくれた。 「モンモラシーからか……そういえば、彼女にも心配を掛けてしまったな」 自分に駆け寄ってきてくれた時の、彼女の悲痛な表情を思い出したギーシュは、その薬を一気に呷りメイドから手渡された水差しで喉の奥へと流し込む。 「どうですか、お薬の味は?」 「良薬口に苦しだよ。う~、マズいなぁ、もう」 「そうでしたか……結構高かったんですけどねぇ、そのお薬……」 ルイズは、自室のベッドの上でシーツに包まり丸くなっていた。 自分は魔法を使えるようになっている。 それも、自分を見下していた奴から手に入れたDISCで。 そう思うと、ルイズは夕方あれだけ取り乱していたのが嘘のような笑みを浮かべていた。 自分は、一年間を、劣等感の中で暮らしてきた。 今、思い返しても、あの一年間は反吐が出る。 だが、それも明日から……いいや、今夜から変わる。 最高の気分でルイズは、魔法で燈したランプを、また魔法で消す。 明日は早くから、あの平民の様子を見に行かなきゃならない。 ご主人様に無断で使い魔のルーンを譲渡したのに、最初は怒りを覚えたが、ホワイトスネイクの台詞でその怒りも消えた。 ―――適材適所……全テノ力ニハ、相応シイ者ガ居ル。アノ、ルーンモ、ソノ類ダッタダケダ――― そうだ、適材適所だ。 あの平民が、私のルーンを扱うように、あんな貴族らしからぬ、ただ魔法が使えるだけの無能共の才能は、もっと毅然とした人間に与えられるべき者だ。 ただ、魔法が使えるだけで貴族と名乗っている連中は、豚のように地べたを這いずり回って『ゼロ』の気分を体感させてやる!! 「見返してやるわ……私を、私を『ゼロ』と呼んだ全てのメイジを…… うぅん、全ての人間を、絶対に見返してやるわ!」 あの目障りな優男の才能は奪ってやったので、後は、いつも、いつも、私を侮辱していた、あの精肉屋に並ぶべき豚と、自分を『ゼロ』と呼んでくる、忌々しいツェルプストーの女。 「一先ずは、この二人をね。 まぁ、後は……おいおい、決めていけば……ふぁぁぁああぁぁ……良いかな……」 トロンとした目付きで、夢心地に入るルイズは、そういえば、キュルケを無能にする時に邪魔をした奴も居たわねぇ、と思い出した。 だが、すぐにそれも忘れる。 また邪魔してきたら諸共奪えば良いし、邪魔をしてこなかったら、それで良い。 自分の記憶の限りでは、あの娘は確か…… 私の事を『ゼロ』とは読んでないのだ……か……ら…… 「ヤット……眠ッタカ……」 ルイズが夢の世界へと旅立った事を確認すると、ホワイトスネイクは椅子に腰掛ける。 「平賀才人……カ……」 珍しく物思いに耽るホワイトスネイクは、あの『黄金の精神』を持った少年の事を思い出していた。 あの少年の持っていた『覚悟』 あれは、もしや…… 「……イヤ、気ノ所為ダナ……ソンナハズ絶対ニ無イ」 そう呟く、ホワイトスネイクの言葉は、誰にも、少なくとも、ホワイトスネイクの耳にすら届いていなかった。 第三話 戻る 第四話
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ヴェストリの広場に立つ、決闘者二人。相対距離はおよそ20メイル。 一人はギーシュ・ド・グラモン。 それに対するはジョセフ・ジョースター。 向かい合う決闘者を囲む貴族の少年少女達。 まだ昼食も終わったところだというのに、ギーシュの災難はなおも続行中だった。 二股がバレたといっても、これはかなりの誤解が含まれている。 モンモランシーが本命だというのはギーシュ自身も認めている。人前ではそっけない態度だが、二人きりになると意外と古式めかしく情が深い。モンモランシーを憎からず思っているから、彼女手製の香水を身に付けているし、瓶だって肌身離さず持っている。 周囲曰く所の『浮気相手』のケティからは好意を寄せられているが、ギーシュ本人としては浮気以前のレベルである。 健全な少年であるギーシュには、好意を寄せてくる相手を邪険にする理由はない。毎日挨拶するし、手を握ったり遠乗りに付き合ったりもする。 だがそれが裏目に出た。 ギーシュとしてはお愛想を振り撒いているだけのはずだったが、当のケティがギーシュの想像以上にギーシュにのめりこんでいたのだった。 それに気付いたギーシュが、如何にしてケティを傷付けずそれとなくお別れするかを考えていたところ、気の利かないメイドが迂闊にも香水の瓶を拾ってしまった。 しかも不運なことに、スキャンダルに飢えた友人達が面白半分にそれを囃し立てたのだ! ケティが大声で吹聴した勘違いを運悪く聞いてしまったモンモランシーからは、ワインを頭から引っ掛けられて絶交を宣告された。 最愛の人には最低の振られ方をするし友人達は更に面白がるわで、ピンチの真っ只中に放り込まれて混乱したギーシュは、瓶を拾っただけのメイドに八つ当たりをしてしまった。 友人達からの槍玉がメイドに向いて、これでひとまず急場を凌げたと思ったら……あの忌まわしい『ゼロ』のルイズの使い魔……平民の老人から突然手袋を投げ付けられて決闘を挑まれる! 『なんだ、僕がどんな悪事を働いたというんだ! ここまでの仕打ちを受けなければならない理由が何処にある! くそ! くそっ!』 高慢にも貴族に自殺の手伝いをさせようとする老人が何もかも悪い、とギーシュは責任転嫁を終了させていた。幾つかの不運が重なったにせよ、彼自身の脇の甘さが招いた事態だという真実は彼の頭の中から完全に抜け落ちていたのだった。 (……さぁて。大口叩いたはいいものの、メイジとやらの実力がどんなモンかまぁったくわからんからのォ~。これが他の五人なら気にせんと真正面から戦って勝てるんじゃろうが) 脳裏に浮かぶのは、エジプトまで共に旅をした仲間達。 それに対して自分が使えるのは波紋にハーミットパープル、それとイカサマハッタリ年季の違い。力押しで戦えるほど若くはない。 だがジョセフは、目の前の坊やをさしたる障害として認識していない自分に気付いている。 吸血鬼、柱の男、スタンド使い……彼らにあった紛う事のない殺気や凄みの欠片すら、目の前の少年は持ち合わせていない。それどころか、この期に及んで今の状況を戦いだと認識できていない。ただ身の程知らずの老人を甚振るだけの見世物の場としか考えていない。 しかしそれでもジョセフは、目の前の少年を『敵』として認識していた。 貴族の前でも怯えや恐怖を見せることなく、余裕綽々と言った様子で立っているジョセフ。 それを見るギーシュの気分がいいはずもない。勢い良く薔薇の造花を突き付けると、芝居がかった態度で、ジョセフに向けてというより、周囲の観客に向けたセリフを叫んだ。 「いいだろう……どうせ老い先短い人生だ、この武門の名門グラモン家嫡子、『青銅』のギーシュ・ド・グラモンがお前の人生に美しくピリオドを刻んでやろう! ああ……そうそう、お前に一つ言っておく事がある」 自分の世界に陶酔し切ったギーシュは、セリフを吐くごとにどんどん自分のカッコ良さとやらに耽溺していく。周囲の人垣からもちょっと笑い声が混じる。 しかしジョセフはそれに頓着する様子もなく、右手の小指で耳をほじりながら口を開いた。 「次にお前は『僕はメイジだ。だから魔法で戦う。まさか文句はないだろうね』と言う」 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。まさか文句はないだろうね……ハッ!?」 ドッ、と笑い声が周囲から上がる。 優雅さを気取っていたギーシュの顔が怒りと羞恥で真っ赤に染まったのは言うまでもない。 「……ここまでコケにされたのは生まれて初めてだ……貴族への軽口の代償を平民が払い切れると思うなッ!!」 著しくプライドを傷付けられたギーシュは歯軋りさえしながら、力任せに薔薇の造花を振り下ろす。 一枚の花びらがゆらゆらと宙に舞ったかと思うと、それは瞬時に膨れ上がり、あっと言う間に女性型の巨大な人形へと変貌した。 青銅の緑に輝く『彼女』の背丈は200サント、ジョセフより僅かに高い。 フォルムも美しい流線型で、女性の美しいボディラインを再現しきっていた。四足歩行やキャタピラということもなく、両腕両足のスタンダードな二足歩行型だった。 「あははははははっ、見ろ! これが『青銅』のギーシュが生み出す美麗なゴーレム……その名も『ワルキューレ』だ!」 既に勝利を確信したギーシュの高笑いと、これから始まる惨劇を期待する観客達の熱い視線がジョセフを包み込む。 だがジョセフ本人は、ワルキューレと称された人形をただ観察していた。 (ほう。青銅とかなんとかのたまってたが……だとすると青銅製の自動人形じゃと考えていいわけじゃな。あれだけ自信があるんじゃから、実際の攻撃力もそれなりにあるんじゃろ。……んまあ、殴られたら痛いじゃろうなァ。なかなか重そうな腕をしとる) 耳をほじっている右手を下ろしながら、ゆっくりと波紋を練り込んでいく。 うっすらとジョセフの身体が発光するものの、昼下がりの日差しの中でほのかな光に気付く生徒はあまりおらず、数少ない生徒達も目の錯覚だと断じてしまった。 「さあ行けワルキューレ! 不遜な平民を痛めつけてやれ!」 ギーシュがその言葉と共に薔薇を振り下ろした瞬間、ワルキューレは短距離走選手のような速度とフォームでジョセフへと駆けていく。 ギーシュは勝利を確信し、シエスタは両手で覆った顔を背け、キュルケは養豚場の豚を見るような目をし、ルイズは部屋で不貞腐れ。 ジョセフは慌てず騒がず、自分に駆け寄ってくるワルキューレが勢い良く左腕を振り上げ、風を切り裂いて自分の頭上に振り下ろされる拳を眺め―― ついさっきまで耳をほじっていた右手の小指を、す、と差し出す。 それでワルキューレの拳は完全に止まった。 「………………なっ………………?」 理解できない光景が展開していた。 図体が大きいとは言え、ジョセフは間違いなくメイジではない。ただの平民である。 だが、ワルキューレの渾身の一撃は、無造作に差し出されたジョセフの小指で完全に止められていた。 「んあー。いい一撃じゃったのう。ただ一つ問題があるとすれば……」 ワルキューレは自らの全体重をかけてジョセフを押し潰そうとするが、まるで老人は巨木でもあるかのように老人はびくともしない。かと言って後ろに引こうとしても、まるで地面に吸いつけられたように足が動かない。押すも引くも、ワルキューレには許されなかった。 「このワルキューレちゃんのパンチよりか、わしの耳クソの方がより手応えがあるってぇことじゃないかのォ?」 事も無げに言い放つジョセフは、あくまでも飄々とした態度を崩していない。 対してワルキューレは全身を軋ませるほど無理な駆動を強いても、そのままの体勢から身動き一つすら取る事ができない! 「ばっ……馬鹿な! 貴様ッ……何をしたッ! 何をしている!?」 懸命に薔薇を上下させながら、ギーシュは絶叫にも似た問いを投げ付ける。 「そんぐらい自分で考えんと成長できんぞ、お貴族様のお坊ちゃま」 差し出した指先に蝶を止まらせてますよ、と言わんばかりの涼しげな声で答えを返しながら、ジョセフはワルキューレの腹に左手を当てた。 (ハーミットパープルッッッ) 紫の茨はワルキューレの内部でくまなく伸ばされる。万が一にもワルキューレの外に茨を出して観客達に見えてしまわないよう、そこだけは十分に注意する。もはや波紋は見せるしかないとは言え、切り札であるスタンドはまだ注意深く隠しておかなければならない。 一瞬のうちにワルキューレの内部は紫の茨で占められる。 どう戦うにせよ、相手の正体を把握せねばならない。その為にハーミットパープルを発動させ、内部構造を理解する。 (ふうむ。中はかっちり隙間なく青銅じゃな……関節もいい感じに作っておる。おそらく魔力とやらで動かしておるんじゃろうが……この魔力は、生命エネルギーとおおよそ同じと考えていいじゃろうな。 そもそも四大元素が自然の中に存在するエネルギーと考えれば、波紋の親戚のようなモンと言ってもあながち間違っちゃおらんのう) 解析し、大体の見当を付けるまでおよそ五秒。 ハーミットパープルを解除し、左手を離し―― (果たして波紋は魔力に干渉するのか! まずはそれを試すッ!) 「たっぷり波紋を流し込んでやろう!! 響け波紋のビィィィィィトッッッ!!!」 気合一閃! ジョセフの左アッパーが、動きを封じられたワルキューレのボディにめり込み…… コンマ数秒前までワルキューレだった残骸は美しい青空をバックに空高く飛び散り、ヴェストリ広場に降り注いだ。 地面に金属が盛大に降り注ぐ音と鳥の鳴き声が、時ならぬ静寂の中では大きく聞こえる。 薔薇を振りかざしたまま固まるギーシュ。地面に散らばったワルキューレの残骸やジョセフを見つめる観衆。 アッパーカットを振り抜いた体勢のまま固まるジョセフ。 (あ……あっれェ~~~~~? い、今……何が、起こったんじゃ……) 高々と掲げられた左手を包む手袋の中では、使い魔のルーンが鮮やかに輝いていた。 しかし手袋の中で輝いても、ジョセフ自身の目にも見えはしない。 (波紋って……こんなに強かった……かのォ~~~~~~!!?) To Be Continued →
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その日のフランス国営航空92便パリ行きの旅客機には、大分奇妙な客が乗り込んでいた。 190センチ近い長身に筋骨隆々とした肉体。ただでさえ目を引く男だったが、何より奇妙なのは、 その男が人身事故に遭ったけが人のように、全身包帯だらけであるということであった。 さらに細かく観察すれば、その男の左指が二本ほど欠損しているのも見て取れただろう。 「ふう…」 男…J・P・ポルナレフは、窓際のシートに深く座ると瞑目する。 思い出すのは、彼のこの一月半ばかりの旅の記憶。 『これで肉の芽がなくなってにくめないヤツになったわけじゃな、ジャンジャン!』 『我が名はJ・P・ポルナレフ…我が妹の魂の名誉のために! 我が友アヴドゥルの心の安らぎのために…この俺が貴様を絶望の淵にブチ込んでやる…』 『だずげでーーーーーーッ!!!!』 『ありゃおれの変装だ』 『ああそうだ思い出した。髪の毛をむしる時人間の顔の前で「へ」をするのが趣味の下品なヤツだった』 『手も足も出なかったけど出してやったぜ!ざまぁみろ!』 『お!あのニャンコ右へ行ったぞ!』 『アヴドゥルゥゥゥーーーーーーッ!!!』 『おれには悲しい友情運があるぜ、助けるはずのイギーに助けてもらったぜ…』 辛い旅だったが、楽しい旅だった。 友情を確かめ合った仲間も出来た。 失ったものも大きかったが、しかしポルナレフの胸は達成感で満たされていた。 後は飛行機に身を任せ、祖国へ帰るだけ。思い出深い祖国へ。 故郷の風景を思うと、ポルナレフの胸は躍った。 アナウンスからしばらくして、ジェットエンジンが低い唸りを上げ、軽いGがポルナレフに降りかかる。 せめて最後に、この国を鳥瞰しようと思い立ち、ポルナレフは目を開けて窓の外を見ることにした。 少しずつ旅客機の速度が上がり、旅客機が浮き上がる。 「さよならだ、アヴドゥル、イギー、花京院…」 流れる景色に、ポルナレフは旅の終わりを確信していた。 彼らが戦った国から、飛び立っていく旅客機。雲間に消えていく町並み。 いつしかポルナレフはうとうとと舟をこぎ始めた。あるいは達成感と安心感が、ポルナレフの精神を緩ませていたのかもしれない。 しかしッ! 『運命』はまだ彼を手離しはしなかったのだッ!! 突如、ポルナレフの眼前に光る鏡のようなものが現れたのだ。 ポルナレフのシートと前のシートの間に出現したそれは、瞬く間にポルナレフへと突撃してきた。 霞がかかっていたポルナレフの思考は弾けとび、次の瞬間暗転した。 「…」 「あんた誰?」 声がする。目を開けると陽光が、光になれない目をチクチクと刺した。 青空をバックに、一人の少女がポルナレフを覗き込んでいた。 ピンクの長髪にとび色の瞳。高校生くらいだろうか。ポルナレフは素直にカワイイ娘だな、と場違いにも思った。 頭がクラクラしていた。ここはどこだ。帰りの飛行機の中の筈だが…どう見てもそうは見えない。 ふいにさらさらと頬をなでる感触に気付いた。美しい草原に、ポルナレフは横たわっていた。 広い青空には真白の千切れ雲が浮いている。 「あれ?…俺は一体…なあ、ここはどこ」 「質問を質問で返さないで!わたしはあんたの名前を聞いたのよ!?」 有無を言わせぬ高圧的な声色で少女は言った。 予想外の返答だったので、ポルナレフは思わず気圧された。 「ポ、ポルナレフ…ジャン・ピエール・ポルナレフだ…」 起き上がりながらそう答える。 自己紹介してから、つじつまの合わないことに気付く。 『飛行機に乗って、離陸して…うとうとしちまって… 夢なのか?戦いの連続だったから疲れてんのかな…こんなよくわからん状況…』 スタンド攻撃にしてはやけに風光明媚な景色だ。遠くには中世のような石造りの城も見える。 ふと見ると、少女の背後には、彼女と似たような格好をした集団がいて、こちらを見ている。 皆同じ色のマントと、星の印の入った留め金をつけている。よく見ると、大きな杖を持っている者もいた。 ファンタジィィィィーーーーな集団である。 そして目の前には自分を覗き込むカワイイ少女(ちょいと凹凸が足りないが)。 『俺はうとうとしていた…そしてこのファンタジーな状況…えーと、つまり…』 ポルナレフはひとつの答えにたどり着いた。 「なーんだ、夢か!じゃ寝よーっと!」 なんだかデジャヴュを覚えるが気にしない。 ポルナレフは再びゴロリと寝転がり、腕を枕にして睡眠を開始した。 そう考えれば、昼寝には絶好の状況だ。適度な日光と、青い草原のなんと心地よいことか。 夢の中で昼寝、なんてのもオツじゃないか。 少女が愕然とした顔でポルナレフを見ているが気にしない。どうせ夢の中のことだ。 ナンパだったら祖国に帰ってからしよう。今は包帯だらけでちょいと体裁が悪いが、傷が癒えたら… 「グガーーーー……」 ポルナレフの意識はあっという間に闇へ沈んでいった。 正直ある程度の矛盾は無視できるくらい、彼の疲労は蓄積していたのだ。 何故、夢の中にまで疲労感を持ち越しているのか? 何故、夢の中で眠れるのか? そんなことはどうでもよろしかった。 「グゴーーーー……」 少女…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはまさに愕然としていた。 春の使い魔召喚。魔法学院の神聖な行事。 『サモン・サーヴァント』にも失敗しまくり、何度目かの挑戦でやっと何かが出現したときは嬉しかった。 自分は少なくとも、使い魔も呼び出せない落ちこぼれではなかったと、胸が震えた。 しかし、現れたモノ…自分の使い魔は、平民。どこの馬の骨ともわからん平民。しかも包帯だらけの傷だらけだ。 「おい、ゼロのルイズが呼び出した平民、眠りだしたぞ!」 「平民を召喚しただけでアレなのに、契約もできんのか、やっぱりゼロのルイズだな!!」 背後から自分をはやし立てる声が聞こえる。 担当教官のコルベールにやり直しも求めたが、「やり直しは許可しないィィィーーー!!」と突っぱねられた。 この平民と契約を交わさねばならないのだ。どうしても。 しかし、このド畜生は契約の前に、こともあろうかイビキをたてて眠り始めたのだ。 ただでさえ平民なんか召喚して同級生にはやし立てられているのに… 有り体に言えば『飼い犬に首輪をつけようとしたら昼寝しはじめた』のと同じようなものだ。 「グゲェーーーーー……」 平民がことさら大きなイビキをかいた瞬間。 「……この……この……」 ルイズの中で何かが切れた。決定的な何かが。 「……ド平民がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ボゴン! 「ドベェーーーー!!」 気が付いたら、平民…ポルナレフと名乗っていた…の横っ腹に、ルイズの爪先がぶち込まれていた。 悶え苦しむ平民の、がっちりしたアゴをひっつかみ、にらみつける。 「あんた、感謝しなさいよ。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから。」 「…へ?」 未だ苦悶の表情を浮かべる平民を無視して、ルイズは呪文の詠唱を始める。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 杖を平民の額に置く。 そして… 「ちょ、ちょっとキミ…」 ズギュウウウウウン!!! うろたえる平民を無視して、口付けた。 平民は目を丸くしている。ルイズだって恥ずかしかった。 なんてったってファーストキスだ。 そっと唇を離す。平民はまだ何が起こったか理解できていない顔だ。 「い、今の感触…」 「?」 「夢じゃねえ!!ホンモノだ…!!」 ポルナレフは困惑していた。 いきなりトーキックをわき腹にぶち込まれたと思ったら、今度はキス。 スタンドも月までぶっ飛ぶ衝撃だった。しかもどうやら夢ではない… 「っぐぅ!?」 いきなり左手に熱を感じた。 焼き鏝を当てられるような熱に、ポルナレフはすっかりそっちに気を取られ、草原を転げまわる。 「あちちちちち!!」 「すぐ終わるわ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ。うっさいわね」 ルイズは内心安堵していた。 『コントラクト・サーヴァント』はどうやら一発成功だったようだ。 しかし、その後のことを考え、ルイズは再び困惑する。 この平民を、果たして使い魔として使役できるのだろうか。見たところ傷だらけで、とても使い魔の任を果たせるようには思えない。 熱さで悶える平民を尻目に、ルイズは頭を抱えていた。 しかし、ルイズはまだ知らない。 この誇り高き騎士(ナイト)の真の実力を… to be continued…-
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アヴドゥル どこまでも ブサかった 遠くまで アヴドゥル どこまでも 続いてた 真っ直ぐに 一番早くラクダに乗った アヴ勝ち 一番好きなあのひと 笑っドゥル 誰よりも遠くにいっても ここからまた笑ってくれる? 瞳を閉じればふっと アヴの日の匂い あの川 遊んでる ふたりきり アヴだらけ アヴドゥル 走ってる 届いたら 幸せと 一番アヴく このアヴ アヴった ドゥル勝ち 一番好きなあのガオン 目指して たくさんの思い出がアヴ 他にはドゥルもいらないぐらい 瞳を閉じれば すぐあのアヴの臭い またアヴがドゥル アヴ色に光る 水面に写す ふたりぶんのドゥル 誰よりも遠くに行っても そこからまた笑ってくれる? 瞳を閉じれば ふっとあの日のアヴ空 原曲【AIR 挿入歌「青空」】 元動画URL【http //www.nicovideo.jp/watch/nm4076008】
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YES, I AM! 泣きたいのに 笑ったり 冷たいふりをしたり 優しい人撲ったり 誤解されたりするのは やっぱり仲間が好きだから 伝えたい 伝わらない 大事なことだけは 泣きながらDIOから 逃れようとしていた過去(こと)も 思い出を抱きしめながら 覚悟決めた現在(こと)も MAGICIAN S RED 空間を越えて この思い 仲間に届け VANILLA ICE 貴様よりも まっすぐに 今 この胸は もっと もっと 熱くなる クモの巣絡まる 屋敷を歩いて 広間を渡って 進むだけなのに 何だか妙に 動悸がするのは 気配を感じぬ それだけだろうか スタンド見えないと 不安になるけど くっきり見えると 怖くなる I KNOW…YOU DON T KNOW!! これこそはと信じられる スタンド 手にしていたけれど 私が「世界」を倒せないなら JOJOしかないでしょう MAGICIAN S RED 燃やしてしまおう 行く手を邪魔するものは BREAKIN THE NIGHT 汚れのない 仲間と生きて行きたい 二度と…もう…迷わない ここから全部始まる ゴリッパな職業など要らない 自由に思いのままに 本気で生きてみたい だから…今 MAGICIAN S RED 空間を越えて この思い仲間に届け BREAKIN THE WORLD 力よりも まっすぐに 今 その胸よ もっと もっと 熱くなれ! 原曲【大黒摩季「熱くなれ 」】 元動画URL【http //www.nicovideo.jp/watch/sm1636388】
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tes
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その日の夜。 ルイズは悩んでいた。 風呂に行ってて部屋にいない使い魔のことで悩んでいた。 どのくらい悩んでいるかと言えば、ベッドの上であーうーと唸ったりごろごろ転がったり枕をかぶって足をジタバタさせるくらい悩んでいた。 ジョセフは有能だった。頭はよくて話し上手で強くて、波紋やハーミットパープルまで使える。使い魔としては申し分のない大当たりだった。欠点と言えば、父親よりも年上の老人で感覚の共有が出来ないくらい。 けれど有能なのも問題がある。 クラスメイトや平民の使用人から満遍無く好感を持たれているのもいいとしよう。見た目が不気味で他人から嫌悪されるよりは、笑顔を向けられる使い魔の方がいいに決まってる。 「……それにしたって限度があるわよ。最近、ジョセフに向けられる笑顔がイヤに増えてるわ。皇太子殿下や王女殿下から笑顔を向けられるのはいいのよ。それだけの働きを成し遂げられる使い魔だということだもの。 ただなんだ。ちょっと最近若い女からの笑顔がえらく増えてないかしら。 色ボケツェルプストーが色目を使うのは今に始まったことじゃあないわよ。だがだ。アルビオンから帰ってきてから色目の質が変わったのはどういうことよ。他の男どもにあんな情熱的な色目を向けていた記憶なんかないわよ。 あの黒髪のメイドもそうよ。あの決闘騒ぎでジョセフに助けてもらってからというもの、それこそ毎日擦り寄ってきてるわ……食事抜きの罰が全く効果ナシだったのも、あのメイドがいそいそと食事を運んできたからじゃない! モンモランシーだってそうよ。あのアホのギーシュとヨロシクやってるクセして、何かしら理由をつけてはジョセフに近付いて来てる様な気がするわ……。まさかギーシュからジョセフに乗り換えようとかそんなハレンチな企みがあるんじゃないでしょうね!?」 ぶつぶつぶつぶつと独り言が口から洩れていることすら気付いていない。ルイズの頭の中では洩れた思考の数倍のあらぬ考えが浮かんでは消えを繰り返していた。 どれくらいあらぬ考えかと言えば、常日頃ギーシュといちゃいちゃバカップルっぷりを見せびらかしているモンモランシーにさえ疑いの目を向けるくらいあらぬ考えだった。 「けど何が一番気に食わないって、ご主人様が側にいるのにあのジジイったらあーそりゃもう他の女が近寄って来たらデレデレ嬉しそうな顔して! アンタ孫もいる妻帯者だって言ってたんじゃないの! しかもなんだ。孫は17歳とか言ってたな。孫より年下のコドモの色香にメロメロか! どれだけ節操がないのよ! いい年してどんなに色ボケなのよ!? 首輪の綱をしっかり私が掴んでるからまだどうにかなってるけど、ちょっとでも手から離してしまったらどうなるかなんて考える前から腹立たしいわ!」 暴走したルイズの思考と、良く言えば若々しく率直に言えば子供っぽいジョセフの日頃の行いのハーモニーが、ルイズの思考を宜しくない方向へ加速させ続ける。 「――大体使い魔があんなにフラフラするかしら!? 他の使い魔はもっとほら、ご主人様好き好き好きーとかそういう感じじゃない!? なのにあのボケ犬ってば他の女にすーぐ鼻の下伸ばすのよ!?」 体の中から沸き上った激情に駆られたルイズは、両手で鷲掴みにした枕でシーツをぼふぼふぼふと乱打する。しばらくそうやっていれば当然腕が疲れるので、埃舞い散る枕をぽいと投げ捨てた。 「どういうことかしら、これは。由々しき問題だわ。 これは何が原因か。胸か。やはり胸なのか。いや待て、モンモランシーはそんなに大きくないわ。むしろ私と同じくらいだわ。胸じゃないのかしら。胸じゃないとしたら何が原因だというの。ちっとも判らないわ……」 答えの見えない思考の迷宮で彷徨うルイズの脳裏に、不意にアンリエッタの言葉が蘇った。 『――ああルイズ。ルイズ・フランソワーズ……忠誠には報いるところがなくてはならないのよ――』 その時ルイズに電流走る――! アンリエッタから与えられ、自分の指にはまっている水のルビーを見た。 アルビオンでの任務に当たった自分の忠誠に対して、こんな高価な宝物を頂いた。だが自分以上に奮闘したジョセフに対して、自分は何も与えていない。 王女殿下が臣下の忠誠に応えていると言うのに、その臣下が有能な使い魔に対して何も応えていないと言うのは、王女殿下の顔に泥を塗るような真似ではないだろうか。 「……でも、今のジョセフに何を報いたらいいのかしら」 食事は主人と同じもの。雑用もそんなに言い付けてはいないし、基本的に不自由な生活はさせていないはず。むしろジョセフが自分が待遇に関して不満を訴えたことがあるだろうか、と考えてみて、特になかったことに気が付いた。 『こんな可愛いご主人様の下で働けるんじゃ。老いぼれにゃ過ぎた幸せということじゃよ』とは言っていたが、それはそれこれはこれ。 「……ジョセフはどうにも隠し事をするタイプだから……言ってるコトが全部本当だと思うのは危険だわ……」 考えてみれば、ジョセフはちょくちょくルイズに対して嘘を言っていた。 召喚されたばかりの頃はボケ老人のフリをしていたし、アルビオンの時だって早々とワルドが裏切り者だと気付いていたのにそれを主人に告げたのは、ワルド本人が裏切りを宣言した後。 正体がバレた後もハーミットパープルを披露したのは少し時間が経ってからだった。 アルビオンの事だって、あれやこれや聞きたがるクラスメイト達を言葉巧みにはぐらかす弁舌を考えれば、果たしてジョセフはどこまで本当の事を言っていてどこまでが嘘なのか判断すらつかなくなってくる。 「あああああああ! なんで使い魔のことでこんなに悩まなくちゃいけないのよ!」 学園にいる多種多様なメイジの中で、使い魔との関係に悩むメイジはたった一人しかいないだろう。従って誰にも相談出来ない問題と言うのもルイズの焦りを加速させる。 そもそもジョースターの血統に連なる人間は危機的状況に陥った場合、親しい人間に自分の本心を隠す傾向がある。ジョセフの祖父ジョナサンも、父ジョージ二世も、母エリザベスも、娘ホリィも、孫の承太郎も、息子の仗助も。 何かしらの危機に際して立ち向かう時、危険に晒されるのは自分だけでいいと考え、親しい者には何も教えないまま……という傾向が強く見られる。 そんなジョースターの血統を色濃く受け継ぐジョセフも、魔法を持つルイズに対してはそれなりに本心を打ち明けている方だった。打ち明けている方なのだが、日頃の大嘘っぷりが信用を損なってしまうという……まあ言ってみれば自業自得と言うやつである。 「あああああ、私にもハーミットパープルさえあれば……! ジョセフの考えてることなんか全部つるっとまるっとお見通しなのに……!」 そしてまたベッドの上で仰向けになって足をじたばたさせる光景が繰り返された。 しかし、不意にルイズの足の動きがぴたりと止まる。足を止めたルイズの視線が、部屋の隅に広げられているボロ毛布に向けられていた。 (ああっ……! そうか、これよ、これだわ……!) 忠誠に報いるべき点が見つかった。 しかし本当にやっていいのかどうか。考えれば考えるほど危険なイメージが浮かばないこともない……が、その不安は指にはまったルビーを見ることで和らげる。 「……しっかりしなさい、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール……こ、これは……忠実な使い魔に対する御褒美なんだから……それ以上のことなんかないんだから……!」 はぁぁぁぁぁぁぁぁ、と波紋呼吸にも似た深呼吸をしながら、意を決してクローゼットに向かうとネグリジェを取ってベッドに戻る。そしてジョセフが戻ってこないうちに着替えてしまおうとボタンを外し、ブラウスを脱ごうと袖から腕を抜き始めたその時。 「帰ったぞー」 外でタイミング計ってたんじゃね? というくらい見事なタイミングでドアを開けて帰ってくる使い魔。 「ひ」 引き攣った悲鳴になりかけた音が口から洩れた次の瞬間、左手で素早く胸を隠し、右手で掴んだ枕を即座にジョセフ目掛けて投げ付けた。 「うお! 何すんじゃルイズ!」 「あ、あああああああんたレディの着替え中にノックもしないで入ってくるとかどういうことよ!?」 「いや待て、ちょっと前までわしに着替えさせてたじゃろ!」 「問答無用! いいって言うまで外に出てなさいよ!」 ルイズが杖を手に取ったのを見て慌てて部屋から出て行くジョセフ。 ジョセフはまたもどっぷり落ち込んで壁に凭れ掛かった。 ホリィがルイズと同じ年頃の時は、他の思春期の少女によく見られる、父親を嫌悪する様子はなかった。むしろベタベタと甘えてきたし、ジョセフもそれが当たり前だと思っていた。 十年振りに会った途端に義手の指を抜き取る、反抗期とか中二病とかそんなチャチなもんじゃないもっと恐ろしい孫は問題外として、世間並みと言える反抗期を初めて体験するジョセフには非常に辛い経験だった。 「わしが一体何かしたんか? 最近ルイズが冷たい……」 ジョセフとしては依然変わりなく小生意気で可愛い孫の世話をしているはずなのに、その孫が見せる反抗期っぷりにずっしり落ち込んでいた。 「……入ってもいいわよ」 躊躇いがちに聞こえたルイズの言葉があってから少々間を置いて、ジョセフは部屋に入る。ネグリジェ姿のルイズが、窓から差し込む月明かりに照らされていた。 ルイズはぷいと顔を背けながらも、部屋に入ったジョセフに向けてブラシを差し出す。 「……ほら、髪、梳きなさいよ」 着替えは見せないくせに髪は梳かせる不可解さにジョセフは首を傾げたが、それに言及するとまた怒鳴りそうなので、大人しくブラシを受け取って髪を梳いてやる。 艶やかな桃色のブロンドを梳き終わると、ルイズはベッドに横たわった。 机の上のランプに向かって杖を振ると、明かりが消える。持ち主の合図で付いたり消えたりする何という事はない魔法のランプだが、これでも随分と高価なものである。 窓から差し込む月明かりがほのかに部屋を照らす中、ジョセフはいつものように部屋の隅の毛布へ向かって歩いていく。 「――ねえ、ジョセフ」 髪を梳かせていた時から言うタイミングを逸し続けていたルイズだったが、喉の半ばで詰まっていた言葉をやっとの思いで吐き出した。 「どうした、ルイズ」 立ち止まって振り返るジョセフを見つめ、また喉につかえかけた言葉を懸命に続けた。 「い、いつまでも床ってのはあんまりだわ。だから、その、ベッドで寝ても……いいわ」 「は?」 思わずジョセフが聞き返した。 「か、勘違いしちゃダメよ! 床の上で寝てるのが可哀想だって思っただけなんだから! ヘ、ヘンなこととかしたら追い出すんだから!」 時折妙な行動を取りがちなルイズだが、今夜は一際奇妙だった。 相手のこれまでの行動や言動を把握して次に言うセリフの予言さえ簡単に出来てしまうジョセフでも、ルイズの次の言葉を予測するのは至難の業だった。 ベッドの端で毛布に包まって丸くなっているルイズの後頭部に向かって声をかける。 「いや、そりゃー床の上よりベッドの方がいいけどなァ。本当にいいんか?」 「いいって言ってるじゃない。何度も同じこと言わせないで」 こういう場合に遠慮しないジョセフは、それ以上は特に聞かずベッドに上がり込む。 枕が空いてるので遠慮なく頭を乗せ、ベッドが広々と空いてるので大の字に寝る。 「……寝てもいいって言ったけど。ご主人様より占有面積が多いってどういうことよ」 毛布からちょこりと頭を出し、我が物顔に寝転ぶジョセフを睨む。 「ああお構いなく」 「構うわよ! このベッドは誰のベッドだと思ってるのよ!?」 「それならそんな端っこで丸まってないでお前も遠慮なく手足を伸ばせばいいじゃろ。わしとお前の二人なら十分に大の字で乗れるぞ」 「……なら枕返しなさいよ」 「ん? んじゃこうすりゃいいんじゃないか」 ルイズが反応する間もなく、ジョセフの手がルイズを抱き抱えたかと思うとそのまま自分の横に引き寄せた。 「え?」 ルイズの頭が何かに乗せられた。普段使っている枕に比べて固くて高いが、頭の据わりはいい。 「え? え?」 頭を横に動かしてみる。 すると、ジョセフがすぐ真横にいる。 「え? え? え?」 ジョセフの腕がルイズの頭の下に、ルイズの頭がジョセフの腕の上に。 「え……えぇーっ!?」 つまり腕枕の形になっていた。 「あ、ああああああああああんたいいいいいいいいいいったいなななななななななにを」 今の自分がどんなことになっているか気付いたルイズは、間違いなく自分の顔から火が出ているとしか思えなかった。 「何って腕枕じゃが」 「いいいいいいいいいやそそそそそそそそそういうもんだいじゃああああ」 (昔はちい姉様によく添い寝してもらったけれど、それでも腕枕だなんて。それも、こんなおっきい男だなんて。いくら使い魔だからってここここここここれは) 「ふぁぁぁ」 思考が暴走しかけたルイズを引き止めたのは、暢気な欠伸だった。 ルイズに腕を貸したジョセフが早々と意識を手放そうとしているのを見て、これまでの躊躇いとか逡巡が全部無駄だったことに気付いた。 と言う訳でとりあえず。 「おふっ」 何のいわれもなく脇腹にチョップを入れられたジョセフが、ちょっと恨めしそうにルイズに視線を向けた。 「……何よ。せっかくご主人様が一緒のベッドで寝てもいいって言ってるのに特に感想もなく寝ようって言うのかしら」 「感想っつってもなー。いや、今までに比べたら随分と寝心地がいいがのォ」 「他にはないの」 「他? えーと、ご主人様の溢れる慈愛に感謝しとりますじゃとか」 「……まあいいわ」 ルイズは少しだけ口を尖らせたが、頭をもぞもぞと動かしてもっと落ち着きのある位置を模索した。 それからちょっとして、ちょうどいい角度を見つけたので本格的に頭をジョセフの腕に預けてしまう。 愛用の枕に慣れ親しんでいた感覚からすれば違和感はやはりあるが、それもそのうち慣れてしまうのだろう。 「……あふ」 ルイズの小さな欠伸が消えると、再び静寂が訪れる。 しかしジョセフは再び眠気を捕らえようとしているのに対し、ルイズは頭の中でぐるぐると益体もない思考を巡らせていた。 (……何よ。私だけが大騒ぎしてただけっていうこと? 馬鹿馬鹿しいわ) 最悪の場合、家族やアンリエッタ王女殿下にお詫びしなければならない事態も考えていた。けれどジョセフは、ルイズと同衾することは孫娘と一緒に寝ること以上でも以下でもないようだった。 (……そりゃそうよね。私は、孫よりも年下で……うん。ジョセフはお父様より年上だもの。そんなはしたないことになるワケがないじゃない。考えすぎだったのよ) けれど、それでも胸の奥をちくりと刺す様な痛みを無視できない。 それは本当に小さくて、無視しようと思えば簡単に無視できるけれど、ルイズはその痛みを無視したくなかった。 何故ならその痛みは、ルイズの中にある確かな痛みだったから。 「……ねえ、ジョセフ」 「んあ?」 少しまどろみかけていたジョセフのシャツの裾を、小さな手でちょっと握った。 「……眠るまで何かお話して」 「話か? んー、どんなのがいい」 「そうね……じゃあ、ジョセフのいた世界のおとぎ話なんか聞きたいわ」 「む、おとぎ話か。じゃあ、こんなのはどうかのう……」 昔、小さいホリィに話した記憶を思い出しながら、赤ずきんを話して聞かせる。 最初のうちは相槌も興味深げに打たれていたが、それも少しずつゆっくりとなり、少しずつあやふやになっていく。だがジョセフは、それでもおとぎ話を続けていく。 やがて安らかな寝息が立て始めたルイズは、ころり、とジョセフに向かって寝返りを打つと細い手を使い魔の胸に回した。 ジョセフは優しく目を細めると、ルイズの肩に毛布をかけてやった。 「……狼はお腹に詰め込まれた石が重くて、川で溺れてしまったんじゃ。猟師に助けられた赤ずきんとお婆さんは、三人でパンとワインをおいしく食べたそうな。めでたしめでたし……」 すう、すう、と規則的な寝息を立てるルイズを見て、ジョセフも今度こそはと目を閉じる。 やがて小さな寝息と、十分間途切れない寝息を重ねる二人を、ただ月明かりだけが照らしていた。 To Be Contined →
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